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マクラーレンの新型ハイブリッド車ARTURA(アルトゥーラ)が初披露目。於 東京ポートシティ竹芝

POST : 2021.4.26
左からMCの安藤優子さん、正本嘉宏代表、そしてスペシャルゲストの山本篤選手。

ハイブリッドのチャレンジャー

2021年4月13日(火)、東京都港区の東京ポートシティ竹芝で、マクラーレンの新型ハイブリッド車Artura(アルトゥーラ)が初披露目された。会場ではマクラーレン・オートモーティブ日本支社代表の正本嘉宏がプレゼンテーションを行い、ゼロから開発されたアルトゥーラのデザインやテクノロジーを解説した。続いて、特別ゲストのリオパラリンピックのメダリストである山本篤選手にご登壇いただき、MCを務めたジャーナリスト/キャスターの安藤優子さんと正本代表の3人によるトークショーを行った。

プレゼンテーションでは、アルトゥーラというモデルを正本代表は次のように位置づけた。「時代が要求する環境性能、安全性、そして快適性を積極的にアップデートしたゲームチェンジャーで、その最大のトピックは電動化です」

そして電動化にあたっては、マクラーレンがスーパーカーのセグメントにおける電動化のパイオニアであると続けた。「2013年にマクラーレンP1でハイブリッドのスーパーカーの形をプレゼンテーションいたしました。そして昨年よりデリバリーが始まったマクラーレン・スピードテールも、別の次元の究極のハイブリッド・スーパーカーです」

プロダクトプレゼンテーションに続いて行われたトークショーでMCを務めた安藤優子さんは学生時代にレースのピットリポーターを務めたほどのクルマ好きで、1994年にTIサーキット英田(現在の岡山国際サーキット)でアイルトン・セナ選手にインタビューした経験もあるという。安藤さんのクルマやモータースポーツへの深い理解もあり、トークショーでは会話が弾んだ。

はじめに、安藤さんより以下のような山本選手のプロフィールが紹介された。1982年生まれの山本篤選手は高校2年生の春休みにバイクの事故で左足を切断。高校卒業後に進んだ義肢装具士になるための専門学校で、山本選手は競技用義足と出会う。それをきっかけにパラ陸上競技に取り組むようになり、厳しい修練の末、リオパラリンピックでは走り幅跳びで銀メダル、4✕100mリレー(T42-47)で銅メダルを獲得した。以下、トークショーのなかでも特に興味深かった箇所を抜粋した。

アルトゥーラは、マクラーレンとしては初のシリーズ生産ハイパフォーマンス・ハイブリッド(HPH)スーパーカーとなる。本体車両価格は2965万円(税込)。

●究極まで機能を追い求めた形は美しい──山本選手

山本篤選手は1982年静岡県生まれ。不幸な事故で左太ももを切断したが、パラ陸上と出会い、リオパラリンピックでは走り幅跳びで銀メダル、4✕100mリレー(T42-47)で銅メダルを獲得した。

安藤 山本選手は、アルトゥーラをご覧になってどうお感じになりましたか?

山本 格好いいですね。他の何者にも似ていいないし、義足もそうなんですが、究極まで機能を追い求めた形って格好よくなると感じました。義足もアルトゥーラも、これを使って走りたくなるし、速く走るとさらに格好よく見えると思います。

安藤 私もアルトゥーラには無駄を削ぎ落とした、山本選手の肉体のような美しさがあると感じましたが、正本代表はいかがでしょう?

正本 まさにアスリートの研ぎ澄まされた筋肉を工業製品として体現したのがアルトゥーラのデザインです。マクラーレンのデザイナーは、「Everything for reason.」という言い回しを使いますが、すべてのデザインには意味があるということですね。たとえばエアロダイナミクスひとつをとっても、高速で地面に車体を押さえつけるダウンフォースをいかに発生させるか、空気をスムーズに流していかに最高速を引き上げるか、エンジンの冷却効率をどれだけ高めるか、そういった機能を考えた意味のあるデザインになっています。

安藤 デザインに無駄なものはないということですね。

正本 格好よくすることは簡単で、機能を追求した上で印象的な造形にすることが、デザイナーにとってやりがいのある仕事だと彼らは言いますね。

安藤 無駄を削ぎ落としてシンプルになっているのに美しさがあるというのは、どこにポイントがあるのでしょう?

正本 自然界に存在する美しい流線型、例えば空を飛ぶ鷹や海を泳ぐサメには美しさがあると思います。その美しさとは研ぎ澄まされた機能美だと思うんですが、それがこのアルトゥーラでも表現されていると思います。

●乗りにくいクルマではレースに勝てない──正本代表

アルトゥーラをはじめとするマクラーレンの各モデルのインターフェイスが優れているのは、レースの経験があるからだと語る正本代表。

安藤 山本選手はさきほど、アルトゥーラのコクピットにお座りになったそうですが、どんなご感想を抱かれましたか?

山本 非常に乗りやすいという印象を受けました。乗り込みやすかったですし、ドライビングポジションを合わせた時に包み込まれるような姿勢になって、すごく運転しやすいんだろうなということが想像できました。あとは手を伸ばすとすぐにスイッチやボタンに触れられるので、操作もしやすそうです。スーパーカーは視野が狭いという思い込みがあったんですが、アルトゥーラは実に視界がよくて、日常的に乗るのは大変じゃないかというイメージが覆されました。

安藤 私も恐る恐る座らせてもらったんですけど、シートのホールド感が思っていた以上にやさしいことや、スイッチがシンプルにレイアウトされていることに驚きました。正本代表、このインテリアのシンプルさは何を意味するのでしょう?

正本 インテリアとはドライビングをするためのものなので、ドライバーが集中しやすいものにするということがコンセプトになっています。マクラーレンはレーシングの第一線で活躍してきたブランドですが、レーシングは単にクルマがいいだけでは勝てないんですね。そこに優秀なドライバーがいて、そのドライバーがクルマの最高のパフォーマンスを引き出した時に、はじめて勝つことができます。ドライバーに無理な負担を強いたりストレスを感じさせるクルマでは勝てないので、マクラーレンのすべてのクルマは視界が広々としていて、ドライバーが安心して運転できるうえに、長距離を乗っても疲れないクルマになっています。

安藤 座らせていただいた時に、非常に僭越ながら、私ももしかしたら運転できるかもしれないと思うぐらいにシンプルなコクピットでしたが、その理由がわかりました。

無駄を排し、機能を突き詰めたうえで造形美を求めるというコンセプトは、インテリアにも貫かれている。

安藤さんがやさしい掛け心地だとかたった新しいクラブスポーツ・シート。軽量かつサポート力に優れ、太もも裏のサポート、シート高、背もたれの角度などを調節する際には、シート全体が楕円の弧を描いてピボットする。

●カーボンの進化に負けない身体づくりが大事──山本選手

正本代表と安藤さんがずっしりとした重みに驚いた競技用の義足。その研ぎ澄まされた機能美は、アルトゥーラにも通じる。

安藤 本日は、山本選手に競技用の義足をお持ちいただきました。これを見た瞬間に格好いいと思ったというお話が印象に残りました。

山本 地面に接するブレードと呼ばれる部分にカーボンが使われていて、手で曲げようとしてもなかなか曲がらないんですが、実際に履いてみるとぴょんぴょん跳ねるんです。日常用の義足だと走ることはほぼ不可能ですが、この義足だったら諦めていたことができるようになる。そのことがわかった時には、すごくワクワクしました。

安藤 義足も進化しているのでしょうか?

山本 競技歴20年になるんですが、どんどん進化をしています。カーボンという素材の特性をうまく活かしながら、どんどん形を変えて進化しています。そういえば、アルトゥーラにもカーボンが使われているとお聞きしました。

正本 マクラーレンはカーボンにこだわるブランドで、この素材は軽量化、低重心化、高剛性、安全性とさまざまなベネフィットが得られます。コスト的にはアルミなどより高いんですが、そうした理由で採用しています。

安藤 カーボンが安全性を高めるというのはどういう点にあるのでしょう?

正本 カーボンタブ、タブというのはバスタブのタブですが、カーボンは圧倒的に剛性が高くて強いので、カーボンタブに囲まれたドライバーは万が一クラッシュしたときにも守られるんですね。フォーミュラ1でも、カーボンタブが採用されてから死亡事故が激減したとされています。

安藤 山本選手にとっても、カーボンは頼れる相棒という存在でしょうか?

山本 そうですね。進化していくカーボンを使いこなすことで、どんどん記録が伸びますから。

正本 競技用の義足を持たせていただくと、結構重量感がありますね。カーボン自体は軽いけれど、ジョイント部分に使われる金属がかなり重い。

安藤 これを履きこなすには、相当の筋力がいるということですね。

山本 はい、どんなにテクノロジーが進化しても、それを使いこなすのは人間の肉体なので、どういう風に動かすのかが大事です。僕も週に6日のトレーニングを積みながら、義足をうまく使いこなせるような身体づくり、義足に負けないような筋力づくりに取り組んでいます。

安藤 カーボンの進化と肉体の進化の相乗効果で記録が伸びるということですね。

正本 いま山本選手のお話を聞きながらずっとうなずいていたんですけど、テクノロジーというのはあくまで手段なので、使う側の人間が大事です。マクラーレンで言うと、人間がテクノロジーを使いこなせるクルマにすること、クルマと人間の最高の関係を実現するためにテクノロジーを使うことが、私たちの目指すところです。

MCLA(マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー)の採用により乾燥重量1395kgという軽量化を実現。ハイブリッド化に伴う重量増を相殺している。

●チャレンジのDNAを引き継いだのがマクラーレン──正本代表

エグゾーストパイプを上方に配置してリアディフューザーを大型化、特徴的なリアビューとなった。

安藤 テクノロジーと人間の両方が大事だということは、アルトゥーラに使われているハイブリッドシステムにも通じると思います。

正本 環境性能が求められているという点に関しては、当然そこを満たす必要があります。ただし、単にエコなスーパーカーを出すというのではなく、マクラーレン流のハイブリッドを考えました。モーターの特性を踏まえ、いままの内燃機関では実現できない特性を与えて、最高のドライビング・エンゲージメントを提供することを考えました。モーターの特性を活かして気持ちのいい加速を付加することで、いままでのマクラーレンにはなし得なかった新しい走りをご提供できた。そこが画期的だと思っています。

安藤 さきほど正本代表から興味深いお話をうかがいましたが、アルトゥーラだったら深夜に帰宅してもご近所に迷惑をかけないとか。

正本 私どものお客さんには社会的ステータスの高い方が多くいらっしゃって、そういう方は早朝や深夜にガレージからクルマを出すのが後ろめたく感じるそうなんです。そういう時はモーターだけで静かにクルマを出していただいて、郊外に出たら思い切り楽しんでいただく。そんな使い方もご提案できます。

安藤 最後に、おふたりにチャレンジングスピリットということについてうかがいたいと思います。

山本 2016年に走り幅跳びで当時の世界新記録を出すことができ、2019年にその自己ベストを更新することができました。現在は7メートルというのをひとつの目標にチャレンジしています。僕の競技人生はずっとチャレンジの連続でしたが、やれるところまで競技を続けて、将来的には子どもたちがパラ競技に取り組めるような環境作りだったり、用具の提供することなどにチャレンジしていきたいです。僕自身も走ることで人生が豊かになったので、ただ義足を提供するだけでなく、走る楽しさを伝えることができたら最高ですね。

正本 われわれのファウンダーのブルース・マクラーレンという人が、非常にアンビシャスな方で、22歳の時にF1で初優勝して、26歳の時にはレーシングコンストラクターを立ち上げて、4年後には自分で開発したマシンで優勝したという、山本さんと同じように志の高い方でした。1970年に開発中のテストで不幸にも事故死してしまったんですが、亡くなる前から今度は市販車ビジネスを広げていこうと、新たな挑戦を始めていたんですね。そのDNAを受け継いでいるのがマクラーレンというブランドでして、今後も山本選手のように絶えず挑戦していくというところを突き詰めて、最新のテクノロジーを最高のドライビング・エンゲージメントに、また次世代のドライビング・エンゲージメントにつなげていきたいと思います。

安藤 クルマもスポーツも、技術の進化とともに人間の進化がさらなる高み、究極のパフォーマンスにつながると感じました。本日はありがとうございました。

 トークショー終了後、控室で山本選手にお話をうかがった。2021年3月に行われたパラ陸上の日本選手権で、山本選手は走り幅跳びで見事に優勝。夏の東京パラリンピックに向けて好調で、充実した表情だった。

しかも、東京パラリンピックの先には北京の冬季パラリンミックも見据える。山本選手は、スノーボードで平昌パラリンピックにも出場しているのだ。夏冬のハイブリッド、二刀流である。

「もともとスノーボードがパラリンピックの競技種目になくて諦めていたんですが、種目に加わったことで俄然、チャレンジする気持ちが湧いてきました」 つまり、山本選手とアルトゥーラは、ハイブリッドのチャレンジャーという点で共通するのだ。山本選手がアルトゥーラについて語るトークショーが盛り上がったのも、ある意味で当然だったのかもしれない。