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マクラーレン 720S テストドライブ in しまなみ海道

POST : 2021.3.18

McLaren 720S Test Drive in Shimanami kaidou
マクラーレン 720S テストドライブ in しまなみ海道

晩夏のしまなみ海道を島下泰久がマクラーレンで味わう

マクラーレンの中核モデルを担う「スーパーシリーズ」に属する720S。マクラーレン車のアイデンティティであるディヘドラルドアを真上に開けた姿も美しい。

マクラーレン 720S&720Sスパイダーで、夏と秋の狭間のしまなみ海道を行く。そんな楽しそうなお誘いが来たら断る理由なんてない。とりわけ今年の前半はステイホームを強いられて、どこにも出掛けられないストレスが溜まっていたから、落ち着いたらどこか気持ちの良い所までリスク最小のドライブ旅行を・・・と考えていたのだ。まさにクルマも、舞台も完璧と言うほかない。

万全の準備をして久々の飛行機に乗り、愛媛県の松山空港へ。荷物をピックアップして空港の外に出ると、陽射しはまだまだ強く、西に来たなという思いを新たにする。そして駐車場へと歩くと、そこには720S、そして720Sスパイダーの2台が準備万端、待っていてくれた。

ホオジロザメをモチーフにした威圧的な姿とは反する快適な室内

4輪それぞれのダンパーの油圧を協調させて電子制御する「プロアクティブシャシーコントロールII」の恩恵もあり、荒れた路面でも確かなロードホールディングを実現する。

同行の渡辺敏史氏とあとで乗り換えようと約束して、まずは目の覚めるような美しい青、その名は“パリ ブルー”の720Sスパイダーのキーフォブを受け取る。荷物はフロントのラゲッジスペースへ。容量は150リットルあるから1泊の荷物には十分以上である。リヤウインドウの下にレザー製のストラップが見えるように、シートの背後にも荷物を置ける場所があるから、2人で2泊以上の旅になったとしても不足はなく、帰りにはしっかりお土産まで買って帰れるはずだ。

右側のディヘドラルドアを開けて室内へ足を踏み入れると、薄いブラウンのインテリアの美しさに、またまた溜息させられた。右ハンドルということで、モノケージIIに押されてペダルはやや左にオフセットされているが、2ペダルということもあり、ポジションは案外しっくり決まった。

見た目には、まあ物々しいクルマである。何しろホオジロザメをモチーフにしたというのだから威圧感は強い。それなのに実際に乗り込んでみると、スカットルが低く視界が開放的なのが効いていて、物怖じせずに動かすことができる。駐車場の料金を払う時なども、長く伸びたドアミラーのステーがガイドの役割を果たしてくれて、自信を持って寄せていけた。後方、そして斜め後方もこの手のクルマとしては望外に視界が開けている・・・というわけで走り出す前の緊張感はどこへやら、一般道へ合流する頃にはすっかりリラックスした気持ちになっていたのだった。

磨きをかけたプロアクティブ シャシーコントロールII

最高出力720ps/最大トルク770Nmを発生する4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンをミッドに搭載。最高速度341km/h、0-100km/h加速は2.9秒を計上する。そのポテンシャルは公道上ではとても測りきれるものではない。

空港を出てしばらくは一般道を行く。国道196号線に入ったらひたすら北上。道は途中、海沿いにも差し掛かり、そうすると広いフロントウインドウの向こうにキラキラ輝く水面が映ったりもして、つい気分が盛り上がる。

乗り心地も上々。ボディはいかにも軽やかなのに凄まじく強靭で、しかもサスペンションが決して長くはないだろうストロークの中で、実にしなやかに入力をいなしてくれるから、舗装の荒れたところでもまったく苦にならない。マクラーレン オートモーティヴの処女作、MP4-12Cの頃からの美点であるこの高い快適性、プロアクティブシャシーコントロールIIを採用した720Sでは、ますます磨きがかかったように思える。

路面とタイヤのコンタクトを極限まで維持しながら、路面の入力はできる限り排除し、いなす。足元ではドライバーが感じるよりも速く、高度なアルゴリズムによってサスペンションが制御され、このまさに相反することを両立しているのだ。

過給エンジンであることを忘れさせるリニアな4.0リッターV8

何よりも軽量性能にこだわるマクラーレンの文法に沿ってシャシーはカーボンモノコックを採用。筆者は卓越したシャシー性能のみならず、高度なエンジンの調律にも高評価を与える。

そんなわけで、まったく疲れも退屈もしないまま気づけば今治市へ。そして予讃線に沿うかたちで高縄半島に入っていき、今治北ICの料金所をくぐれば、しまなみ海道ドライブのスタートである。

料金所を過ぎ本線に合流したらアクセルオン。これまで回せていなかったエンジンを思い切り歌わせて・・・と言いたいが、このクルマで全開になどしたら一瞬で法定速度のはるか先にまで到達してしまう。目立つクルマでもある。あくまでジェントルに、流れに乗っていく。

ここまでの一般道でも感じていたが、キャビンの背後に積まれたV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンのドライバビリティは本当に素晴らしい。最高出力720psというハイチューンにも関わらず、低回転域でもむずがる様子を見せることなく淡々とクルージングをこなせるし、追い越しなどの際にには右足にほんのわずかに力を加えれば、まさに思った通りに速度が上乗せされる。反応が遅れたり、逆にいきなりパワーが立ち上がったりといったことがまったく無く、とにかくリニアで、その点では過給エンジンであることを忘れさせる。

もちろん、単に躾がいいだけではない。ちょうど良いよりわずかに多くアクセルを踏み込めば、鋭いピックアップでパワーが立ち上がり、まさに吸い込まれるかのような加速が始まる。この辺りは、まさに過給ユニットらしい刺激。乗り手次第でジキルにもハイドにもなる。

秘めたパワーを開放せずとも無類の一体感でGT性能は高い

これまで私は色々なところで「マクラーレンはF1を見てもわかる通りシャシー屋で・・・」 と書いてきた気がするが、そろそろこのフレーズは封印するべきなのかもしれない。シャシーも相変わらず素晴らしいが、彼らはスポーツエンジンの調律においても目覚ましいものを見せてくれているのだから。

こんなエンジンなので、やはり思い切り踏みたい気持ちに抗うのは難しい・・・という常套句でもそろそろ使うべきかもしれないが、この720S、法定速度で流れに乗って走っているだけでも望外の気持ちよさで、速度を上げたいという気持ちになど、まったくなっていなかった。速く走ろうと思えば、いつでもいけるという気持ちの余裕もあるが、やはりその優れたドライバビリティがもたらすクルマとの無類の一体感が、そう思わせるのだろう。

途中、工事渋滞にまで遭遇してしまったが、それすらまったく苦にならず、待ち合わせの生口島南ICまでのドライブは、思いのほか充実したものになった。気づけば、一度もアクセルを全開にすることなく・・・。クルマとの対話があまりに楽しくて、試すつもりだったBowers and Wilkinsのオーディオ、聴きそびれてしまったのだけが、唯一の心残りである。

待望だった720S スパイダーの感触

720Sのクーペモデルに続いてスパイダー(写真左)を試乗。スパイダーは左ハンドル仕様であり、ペダル配置にも違和感を感じなかった。

マクラーレン720S&720Sスパイダーで、しまなみ海道を行くドライブ。松山空港から生口島までの往路をマクラーレン720Sで走り、いよいよ帰路はマクラーレン720Sスパイダーへと乗り換える。クーペはこれまでもサーキットを含めて何度かステアリングを握っていたがスパイダーは今回が初めてで、密かに楽しみをあとに取ってあったのだ。

こちらのボディカラーは“スーパーノヴァ シルバー”。一見、単純な銀かと思いきや実車はとても深みがあり、また美しく輝く色で、この地味派手な感じも気に入ってしまった。

前方視界はパノラマ級に広いスパイダー

基本的なスペックはクーペに準じる720Sスパイダー。最大の違いであるオープントップでのドライブは、パノラマ級の前方視界と管楽器のように響き渡るエキゾーストノートという、感性に訴えかけてくるもの。

左ハンドルということで、さっきまでとは反対側のディヘドラルドアを開ける。クーペとは違ってルーフ側には支点がないので、ドアの開き方は微妙に異なる。マニアだけが知るポイントである。室内へと乗り込むと、さすがにペダル類のオフセットも無く、ドライビングポジションはぴたりと決まる。ミラーの位置などを調整したら、居ても立っても居られずすぐさま走り出した。

せっかくのスパイダーなのにルーフは開けないのかって? いやいや実は720Sスパイダー、リトラクタブルハードトップでありながら走行中でもルーフはスイッチひとつで開閉可能。だから走り出してからオープンにすればいいという算段である。

開閉所要時間はわずか11秒。室内に海の匂いのする風が心地よく入り込んできた。風の巻き込みはよくコントロールされているが、室内は完全に無風になるわけではなく、適度に髪を撫ぜる感覚である。オープンらしさを、ストレス無く堪能できる。

クーペと同じくシートポジションは地面に座っているんじゃないかというぐらい低く、それなりにスカットルも思い切り低くされているから前方視界はパノラマ級に広い。しかも見上げれば青い空である。気持ち良くないはずがない!

ちなみに試乗車はオプションのエレクトロ・クロミックガラスルーフを装着していたから、クローズ状態でもスイッチひとつで室内に明るい陽光を採り入れることができた。天気や気温で、楽しみ方は自由自在だ。

管楽器から奏でられているようなエキゾーストノートに昂る

今回のロードトリップでは本国のプロダクトマネージャーにオンラインでインタビューを行うことができた。マクラーレンがステアリングフィールを最重要視していることを訊き、筆者も同意見であると膝をうった。

この辺りには短いながらもワインディングロードがあったので、軽くコーナリングも楽しんだ。小径のステアリングを切り込んでいくと、クルマは余計なロールなどを感じさせることなく、まさに“スーッ”という音を立てるがごとくスムーズにノーズをイン側へと向けていく。これまた気持ち良い!!

クルマが想像以上の鋭さで勝手に曲がっていくわけではなく、思った通りのラインを忠実にトレースしていく。まさに意のままになる感覚は、別に飛ばさなくたって、ゆっくり走っていても味わえる。このコーナリング感覚が720Sとまったく変わらないのは、CFRP製のバスタブであるモノケージII-Sを採用したボディの強靭さの賜物だろう。

実際には4輪のダンパーを連関させたプロアクティブシャシーコントロールIIや、アクティブ・ウイングなど満載された最先端のテクノロジーによって統合制御されたシャシーなのだが、そのふるまいはあくまでナチュラル。人の感覚に寄り添い、まさに人馬一体という言葉を使いたくなるような走りを堪能できる。

そうした印象には絶品のステアリングフィールも大いに貢献している。タイヤに、地面に、直接触れているかのようにダイレクトで、それでいて雑味なく非常にクリアな操舵感は、クルマとのコネクト感をこの上ないレベルにまで高めているのだ。

エンジンの印象もクーペで感じたのと同様で、やはりアクセル操作に対するリニアリティが素晴らしい。しかもオープンボディということで、音の魅力が倍増しているのがこのスパイダーなのだが、その音にしても演出めいたブーミーな低音ではなく、まさしく完全燃焼した排ガスがきれいに抜けていく音という感じで、少々誇張気味に言えば管楽器から奏でられているかのよう。踏み方、走らせ方に応じて音色が変化するのが小気味よく、押し付けがましい音じゃないから聞いていて飽きない。こちらもまた回しても、回さなくても、とても耳ざわりが良いのである。

本国のマネージャーにオンラインインタビュー

最高出力720psというハイパフォーマンスを公道で発揮することは難しい。しかし720Sのロードトリップを通じて、余裕のある高性能がストリートでも有効であることを再確認することができた。

そんな具合で720Sスパイダーでの心地よいドライブに大満足してこの日の宿に入ると、イギリスはウォーキングとネットが繋がっていて、オンラインでインタビューすることができた。お相手はグローバルプロダクトマネージャーのMr.Ian Howshallだ。

話はちょうど発表されたばかりの、将来の電動化に向けた新しい軽量アーキテクチャーについて、あるいは昨今の市況についてなど多岐に渡った。その中で私が訊いたのはマクラーレンの考える“スポーツカーが持つべき走りの質、テイスト”とはどんなものか」ということ。果たしてその答えは、まさに我が意を得たりというものだった。

「私達はドライバーがどんな体験を得られるのか、そしてその質を重視しています。その大切なキーのひとつがステアリングフィールです。マクラーレンは敢えて電動油圧式のパワーステアリングを使い続けています。これには理由があって、私達としてはクルマと人、ドライバーと路面がしっかりコミュニケーションしてほしい。その一助となるべきものがステアリングシステムで、電動油圧式では、路面のミクロレベルのバイブレーションまで敏感なドライバーの指先に伝えてくれるので、まるで路面とつながっているかのような感触が得られるのです」

闇雲に飛ばさないからこそ神髄に触れることができた

マクラーレンというブランドには、モータースポーツからのフィードバック、最先端のテクノロジーというイメージがどうしても強くなる。実際、それは事実なのだが、ロードカーづくりの根底にあるのは、あくまで人間の感覚を大事にするという哲学だったというのは、なかなか興味深い話ではないだろうか?

行程すべてが一般道ということで、思い切り飛ばせるわけではないはず。さて、一体どういった印象を得ることができるのかと、実は事前には不安もないではなかった今回の試乗。終わってみれば、まさに闇雲に飛ばすのではないからこそ、マクラーレンの真髄に触れることのできる機会となった。

高速道路でも基本的には100km/hまでの日本でスーパースポーツに乗る意味。少なくともマクラーレン 720S&720Sスパイダーには、十二分にある。この旅を経て、私はそう断言したい。

マクラーレン720S

ボディスペック:全長4543 全幅1930 全高1196mm
ホイールベース:2670mm
車両乾燥重量:1419kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3994cc
最高出力:537kW(720ps)/7500rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/5500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)
タイヤ&ホイール:前245/35ZR19 後305/30R20
最高速度:341km/h
0-100km/h加速:2.9秒

マクラーレン 720Sスパイダー

ボディサイズ:全長4543 全幅1930 全高1196mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1468kg
エンジンタイプ:V型8気筒ツインターボ
総排気量:3994cc
最高出力:527kW(720ps)/7250rpm
最大トルク:770Nm(61.2kgm)/5500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)
タイヤ&ホイール:前245/35R19 後305/30R20
最高速度:341km/h
0-100km/h加速:2.9秒

Report: 島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
Photos: マクラーレン・オートモーティブ・ジャパン