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ハイブリッドの次世代チャレンジャー、ARTURA。追い求める「限界へのロマン」を六本木ヒルズで特別公開!

ARTURAには見て、触れて感じる強みがある

2021年10月1日(金)と2日(土)の両日、六本木ヒルズ(東京都港区)の大屋根プラザで、今年2月に誕生したマクラーレンの新型ハイブリッド車「ARTURA」(アルトゥーラ)の特別展示イベントを開催。「DISCOVER FULL FORCE OF McLAREN」と題した同イベントでは、マクラーレンがこれまでにないドラマチックな手法で作り上げたARTURAの開発哲学を余すところなく、表現した。

六本木ヒルズの主要動線の結節点、半屋外のオープンスペースに展示したのはフラックス・グリーンとエンバー・オレンジの2台。“スーパースポーツの新時代”を予感させるに相応しい生命感溢れるビビッドなカラー、低く身構えるスタンス、継ぎ目のない彫刻のようなボディを見るにつけ、スーパーカーファンを言うに及ばず、多くの老若男女が足を止め、驚きの表情をみせた。

会場内中央に配置したピット、モニター画面から映し出されるのは、イギリス本国から届いたARTURAのモーショングラフィックス。「Everything for a reason」(すべてのデザインに意味がある)ーーこんな開発哲学を下支えに、4年の歳月を費やし、最新のアーキテクチャーを随所に採用したARTURAの機能美について直感的に表現。「究極の出力」「息を呑む加速」「ファイターの美学」「勝負は0.001秒」「軽量化という革新」……ARTURAが求める「限界へのロマン」を言葉としても編み、伝えた。

「たった3秒で時速100kmに到達するってどういう感覚なのかな。想像できない。すごい」「ステアリングホイールから手を離さず、操作できるんだ。極限の状況で任務を遂行するパイロットと同じ感覚ってことか」「ディヘドラル・ドア、格好良すぎる」「車両重量が1498kgってどのぐらいの重さ?(スマホで同クラスの車の重量を確認し……)クラス最軽量なのか」「100-0km /hの制動距離が31mって、あのドアぐらいまでの距離でしょ? 信じられない」「研ぎ澄まされた機能美ってこういうことか」。展示期間中、こんな声が会場内から多く聞き漏れてきた。

柔らかな陽が注ぐ午前中(11時)から、夜の帳が降り、ライトアップが映える夜8時まで、展示イベントは両日ともに盛況。列が途絶えることはなかった。要望をいただければ、実際にARTURAのコクピットの中に入り、ドライビングポジションを体感できるとあって、多くの方々が「ファイターの美学」も体感。人間工学に基づいて設計したドライバー中心のデザイン思想に触れながら、コクピットというパーソナル・スペースのファインチューンを想像し、オーナーだけに許される自由を謳歌しているようだった。

昼と夜、光の当たり方によって表情を変えるところもARTURAの魅力のひとつだ。「また明日も来ます。明日は夜に来ます」。翌日、再び来場されたその方の表情は輝きを増していた。

マクラーレンの新型ハイブリッド車ARTURA(アルトゥーラ)が初披露目。於 東京ポートシティ竹芝

左からMCの安藤優子さん、正本嘉宏代表、そしてスペシャルゲストの山本篤選手。

ハイブリッドのチャレンジャー

2021年4月13日(火)、東京都港区の東京ポートシティ竹芝で、マクラーレンの新型ハイブリッド車Artura(アルトゥーラ)が初披露目された。会場ではマクラーレン・オートモーティブ日本支社代表の正本嘉宏がプレゼンテーションを行い、ゼロから開発されたアルトゥーラのデザインやテクノロジーを解説した。続いて、特別ゲストのリオパラリンピックのメダリストである山本篤選手にご登壇いただき、MCを務めたジャーナリスト/キャスターの安藤優子さんと正本代表の3人によるトークショーを行った。

プレゼンテーションでは、アルトゥーラというモデルを正本代表は次のように位置づけた。「時代が要求する環境性能、安全性、そして快適性を積極的にアップデートしたゲームチェンジャーで、その最大のトピックは電動化です」

そして電動化にあたっては、マクラーレンがスーパーカーのセグメントにおける電動化のパイオニアであると続けた。「2013年にマクラーレンP1でハイブリッドのスーパーカーの形をプレゼンテーションいたしました。そして昨年よりデリバリーが始まったマクラーレン・スピードテールも、別の次元の究極のハイブリッド・スーパーカーです」

プロダクトプレゼンテーションに続いて行われたトークショーでMCを務めた安藤優子さんは学生時代にレースのピットリポーターを務めたほどのクルマ好きで、1994年にTIサーキット英田(現在の岡山国際サーキット)でアイルトン・セナ選手にインタビューした経験もあるという。安藤さんのクルマやモータースポーツへの深い理解もあり、トークショーでは会話が弾んだ。

はじめに、安藤さんより以下のような山本選手のプロフィールが紹介された。1982年生まれの山本篤選手は高校2年生の春休みにバイクの事故で左足を切断。高校卒業後に進んだ義肢装具士になるための専門学校で、山本選手は競技用義足と出会う。それをきっかけにパラ陸上競技に取り組むようになり、厳しい修練の末、リオパラリンピックでは走り幅跳びで銀メダル、4✕100mリレー(T42-47)で銅メダルを獲得した。以下、トークショーのなかでも特に興味深かった箇所を抜粋した。

アルトゥーラは、マクラーレンとしては初のシリーズ生産ハイパフォーマンス・ハイブリッド(HPH)スーパーカーとなる。本体車両価格は2965万円(税込)。

●究極まで機能を追い求めた形は美しい──山本選手

山本篤選手は1982年静岡県生まれ。不幸な事故で左太ももを切断したが、パラ陸上と出会い、リオパラリンピックでは走り幅跳びで銀メダル、4✕100mリレー(T42-47)で銅メダルを獲得した。

安藤 山本選手は、アルトゥーラをご覧になってどうお感じになりましたか?

山本 格好いいですね。他の何者にも似ていいないし、義足もそうなんですが、究極まで機能を追い求めた形って格好よくなると感じました。義足もアルトゥーラも、これを使って走りたくなるし、速く走るとさらに格好よく見えると思います。

安藤 私もアルトゥーラには無駄を削ぎ落とした、山本選手の肉体のような美しさがあると感じましたが、正本代表はいかがでしょう?

正本 まさにアスリートの研ぎ澄まされた筋肉を工業製品として体現したのがアルトゥーラのデザインです。マクラーレンのデザイナーは、「Everything for reason.」という言い回しを使いますが、すべてのデザインには意味があるということですね。たとえばエアロダイナミクスひとつをとっても、高速で地面に車体を押さえつけるダウンフォースをいかに発生させるか、空気をスムーズに流していかに最高速を引き上げるか、エンジンの冷却効率をどれだけ高めるか、そういった機能を考えた意味のあるデザインになっています。

安藤 デザインに無駄なものはないということですね。

正本 格好よくすることは簡単で、機能を追求した上で印象的な造形にすることが、デザイナーにとってやりがいのある仕事だと彼らは言いますね。

安藤 無駄を削ぎ落としてシンプルになっているのに美しさがあるというのは、どこにポイントがあるのでしょう?

正本 自然界に存在する美しい流線型、例えば空を飛ぶ鷹や海を泳ぐサメには美しさがあると思います。その美しさとは研ぎ澄まされた機能美だと思うんですが、それがこのアルトゥーラでも表現されていると思います。

●乗りにくいクルマではレースに勝てない──正本代表

アルトゥーラをはじめとするマクラーレンの各モデルのインターフェイスが優れているのは、レースの経験があるからだと語る正本代表。

安藤 山本選手はさきほど、アルトゥーラのコクピットにお座りになったそうですが、どんなご感想を抱かれましたか?

山本 非常に乗りやすいという印象を受けました。乗り込みやすかったですし、ドライビングポジションを合わせた時に包み込まれるような姿勢になって、すごく運転しやすいんだろうなということが想像できました。あとは手を伸ばすとすぐにスイッチやボタンに触れられるので、操作もしやすそうです。スーパーカーは視野が狭いという思い込みがあったんですが、アルトゥーラは実に視界がよくて、日常的に乗るのは大変じゃないかというイメージが覆されました。

安藤 私も恐る恐る座らせてもらったんですけど、シートのホールド感が思っていた以上にやさしいことや、スイッチがシンプルにレイアウトされていることに驚きました。正本代表、このインテリアのシンプルさは何を意味するのでしょう?

正本 インテリアとはドライビングをするためのものなので、ドライバーが集中しやすいものにするということがコンセプトになっています。マクラーレンはレーシングの第一線で活躍してきたブランドですが、レーシングは単にクルマがいいだけでは勝てないんですね。そこに優秀なドライバーがいて、そのドライバーがクルマの最高のパフォーマンスを引き出した時に、はじめて勝つことができます。ドライバーに無理な負担を強いたりストレスを感じさせるクルマでは勝てないので、マクラーレンのすべてのクルマは視界が広々としていて、ドライバーが安心して運転できるうえに、長距離を乗っても疲れないクルマになっています。

安藤 座らせていただいた時に、非常に僭越ながら、私ももしかしたら運転できるかもしれないと思うぐらいにシンプルなコクピットでしたが、その理由がわかりました。

無駄を排し、機能を突き詰めたうえで造形美を求めるというコンセプトは、インテリアにも貫かれている。

安藤さんがやさしい掛け心地だとかたった新しいクラブスポーツ・シート。軽量かつサポート力に優れ、太もも裏のサポート、シート高、背もたれの角度などを調節する際には、シート全体が楕円の弧を描いてピボットする。

●カーボンの進化に負けない身体づくりが大事──山本選手

正本代表と安藤さんがずっしりとした重みに驚いた競技用の義足。その研ぎ澄まされた機能美は、アルトゥーラにも通じる。

安藤 本日は、山本選手に競技用の義足をお持ちいただきました。これを見た瞬間に格好いいと思ったというお話が印象に残りました。

山本 地面に接するブレードと呼ばれる部分にカーボンが使われていて、手で曲げようとしてもなかなか曲がらないんですが、実際に履いてみるとぴょんぴょん跳ねるんです。日常用の義足だと走ることはほぼ不可能ですが、この義足だったら諦めていたことができるようになる。そのことがわかった時には、すごくワクワクしました。

安藤 義足も進化しているのでしょうか?

山本 競技歴20年になるんですが、どんどん進化をしています。カーボンという素材の特性をうまく活かしながら、どんどん形を変えて進化しています。そういえば、アルトゥーラにもカーボンが使われているとお聞きしました。

正本 マクラーレンはカーボンにこだわるブランドで、この素材は軽量化、低重心化、高剛性、安全性とさまざまなベネフィットが得られます。コスト的にはアルミなどより高いんですが、そうした理由で採用しています。

安藤 カーボンが安全性を高めるというのはどういう点にあるのでしょう?

正本 カーボンタブ、タブというのはバスタブのタブですが、カーボンは圧倒的に剛性が高くて強いので、カーボンタブに囲まれたドライバーは万が一クラッシュしたときにも守られるんですね。フォーミュラ1でも、カーボンタブが採用されてから死亡事故が激減したとされています。

安藤 山本選手にとっても、カーボンは頼れる相棒という存在でしょうか?

山本 そうですね。進化していくカーボンを使いこなすことで、どんどん記録が伸びますから。

正本 競技用の義足を持たせていただくと、結構重量感がありますね。カーボン自体は軽いけれど、ジョイント部分に使われる金属がかなり重い。

安藤 これを履きこなすには、相当の筋力がいるということですね。

山本 はい、どんなにテクノロジーが進化しても、それを使いこなすのは人間の肉体なので、どういう風に動かすのかが大事です。僕も週に6日のトレーニングを積みながら、義足をうまく使いこなせるような身体づくり、義足に負けないような筋力づくりに取り組んでいます。

安藤 カーボンの進化と肉体の進化の相乗効果で記録が伸びるということですね。

正本 いま山本選手のお話を聞きながらずっとうなずいていたんですけど、テクノロジーというのはあくまで手段なので、使う側の人間が大事です。マクラーレンで言うと、人間がテクノロジーを使いこなせるクルマにすること、クルマと人間の最高の関係を実現するためにテクノロジーを使うことが、私たちの目指すところです。

MCLA(マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー)の採用により乾燥重量1395kgという軽量化を実現。ハイブリッド化に伴う重量増を相殺している。

●チャレンジのDNAを引き継いだのがマクラーレン──正本代表

エグゾーストパイプを上方に配置してリアディフューザーを大型化、特徴的なリアビューとなった。

安藤 テクノロジーと人間の両方が大事だということは、アルトゥーラに使われているハイブリッドシステムにも通じると思います。

正本 環境性能が求められているという点に関しては、当然そこを満たす必要があります。ただし、単にエコなスーパーカーを出すというのではなく、マクラーレン流のハイブリッドを考えました。モーターの特性を踏まえ、いままの内燃機関では実現できない特性を与えて、最高のドライビング・エンゲージメントを提供することを考えました。モーターの特性を活かして気持ちのいい加速を付加することで、いままでのマクラーレンにはなし得なかった新しい走りをご提供できた。そこが画期的だと思っています。

安藤 さきほど正本代表から興味深いお話をうかがいましたが、アルトゥーラだったら深夜に帰宅してもご近所に迷惑をかけないとか。

正本 私どものお客さんには社会的ステータスの高い方が多くいらっしゃって、そういう方は早朝や深夜にガレージからクルマを出すのが後ろめたく感じるそうなんです。そういう時はモーターだけで静かにクルマを出していただいて、郊外に出たら思い切り楽しんでいただく。そんな使い方もご提案できます。

安藤 最後に、おふたりにチャレンジングスピリットということについてうかがいたいと思います。

山本 2016年に走り幅跳びで当時の世界新記録を出すことができ、2019年にその自己ベストを更新することができました。現在は7メートルというのをひとつの目標にチャレンジしています。僕の競技人生はずっとチャレンジの連続でしたが、やれるところまで競技を続けて、将来的には子どもたちがパラ競技に取り組めるような環境作りだったり、用具の提供することなどにチャレンジしていきたいです。僕自身も走ることで人生が豊かになったので、ただ義足を提供するだけでなく、走る楽しさを伝えることができたら最高ですね。

正本 われわれのファウンダーのブルース・マクラーレンという人が、非常にアンビシャスな方で、22歳の時にF1で初優勝して、26歳の時にはレーシングコンストラクターを立ち上げて、4年後には自分で開発したマシンで優勝したという、山本さんと同じように志の高い方でした。1970年に開発中のテストで不幸にも事故死してしまったんですが、亡くなる前から今度は市販車ビジネスを広げていこうと、新たな挑戦を始めていたんですね。そのDNAを受け継いでいるのがマクラーレンというブランドでして、今後も山本選手のように絶えず挑戦していくというところを突き詰めて、最新のテクノロジーを最高のドライビング・エンゲージメントに、また次世代のドライビング・エンゲージメントにつなげていきたいと思います。

安藤 クルマもスポーツも、技術の進化とともに人間の進化がさらなる高み、究極のパフォーマンスにつながると感じました。本日はありがとうございました。

 トークショー終了後、控室で山本選手にお話をうかがった。2021年3月に行われたパラ陸上の日本選手権で、山本選手は走り幅跳びで見事に優勝。夏の東京パラリンピックに向けて好調で、充実した表情だった。

しかも、東京パラリンピックの先には北京の冬季パラリンミックも見据える。山本選手は、スノーボードで平昌パラリンピックにも出場しているのだ。夏冬のハイブリッド、二刀流である。

「もともとスノーボードがパラリンピックの競技種目になくて諦めていたんですが、種目に加わったことで俄然、チャレンジする気持ちが湧いてきました」 つまり、山本選手とアルトゥーラは、ハイブリッドのチャレンジャーという点で共通するのだ。山本選手がアルトゥーラについて語るトークショーが盛り上がったのも、ある意味で当然だったのかもしれない。

未体験の衝撃「ARTURA」

マクラーレンから発表されたアルトゥーラは、次世代のマクラーレンの中心となるハイブリッド・スーパースポーツだ。

V6エンジン+モーターで680㎰/720Nmを実現し、30㎞のEV走行が可能なバッテリーを搭載しながら1.5tを切る重量を実現している。GENROQは、いち早くアルトゥーラを撮影する機会を得た。新時代マシンの詳細に迫ろう。

スーパースポーツの今後の姿をいち早く具現化した存在だ。

マクラーレンが次期主力モデルをハイブリッドにする、という噂は以前から伝わってきていたが、その全貌がついに明らかになった。過去にもマクラーレンはP1でハイブリッドスーパーカーを発売したが、あくまでも限定生産の特別なモデルだった。今回登場したアルトゥーラは従来のスポーツシリーズに取って代わる存在であり、同社の主力となる位置づけである。ラインナップの主力モデルをハイブリッド化するのは、スーパースポーツカーブランドとしては初めてのこと。アルトゥーラはマクラーレンだけでなく、スーパースポーツの今後の姿をいち早く具現した存在なのだ。

テールライトはGTと同様の横一線のデザイン。カーボン製のバンパーと大型のリヤディフューザーを備える。ディフューザーの隙間からEデフが見える。

エンジンとモーター、そして大容量のバッテリーや制御システムを搭載しなくてはいけないハイブリッドは、純エンジン車とはパッケージングが大いに異なる。それだけに、アルトゥーラではまずそのスタイリングが従来のマクラーレンとどれくらい異なるのかに注目をしていた。しかし、いざ目の前に現れたアルトゥーラは、570Sや720Sといった今までのマクラーレンの流れを完全に受け継いでいた。いや、それどころかダイナミックで引き締まったボディは、複雑でかさばるパワーユニットを搭載しているとは思えないほど美しい。この姿を実現するために、マクラーレンのエンジニアたちは多くの手間と時間を費やしたことだろう。アルトゥーラの開発にあたり、マクラーレンはすべてをゼロから始めたという。その基本はやはりカーボンファイバー・モノコックだ。ハイブリッドユニットのために新開発されたこれはバッテリーパック用のセーフティセルが備わり、重量わずか82㎏。

これにアルミニウム製のクラッシュビームとリヤサブフレームが装着され、軽量と高剛性、そして安全性を高いレベルで実現している。エンジンは新開発のV6を採用し、従来のV8よりも50㎏軽く、そして全長を190㎜短くすることに成功した。3ℓの排気量にツインターボで加給し、パワーは585㎰、585Nmを発揮。もちろんドライサンプで重心も低く抑えられている。新開発8速DCTとの間に搭載されるモーターは95㎰、225Nmで、トータルでの出力は680㎰、720Nm。これはスーパーシリーズの720Sに迫る数字であり、しかも中低速域をモーターが効率的に補うことで、かつてないほど全域での速さを実現したという。

乗員の背後に搭載されるリチウムイオンバッテリーは7・4kWhで、最大30㎞までのEV走行が可能。家庭でも充電できるので、ウィークデイの街中での使用は電気のみで行うことも可能だろう。また都市部でのEV走行に備えて、走行中にエンジンからバッテリーに優先充電を行っておくことも可能だ。これらハイブリッドのシステム全体の総重量は130㎏となるが、カーボンモノコックやエンジンの軽量化との相殺で車両重量は1498㎏に押さえられた。これは従来のモデルとほぼ変わらないレベルで、結果として0→100㎞/h加速3・0秒を達成。ちなみに停止状態から300㎞/hまでの加速はわずか21・5秒だという。もちろん加速だけでなく、ハンドリング性能も第一級に仕上げられている。チーフエンジニアのジェフ・グローズ氏は「アルトゥーラは妥協を強いることのない、スリリングで魅力的なスーパーカーです。クラストップのドライビング・ダイナミクスと最先端のテクノロジーというポリシーを見事に果たしています」 とアルトゥーラの仕上りに自信を見せる。軽量を社是とするマクラーレンにとって、ハイブリッドという選択肢は大いなるチャレンジであったはず。しかし、彼らは見事にその壁を乗り越えたようだ。18万5500ポンド(約2700万円)という意外に低い価格設定にも、彼らの攻めの姿勢が伺える。

大いなる挑戦であったハイブリッド彼らは見事にその壁を乗り越えた。

マクラーレン GTでロードトリップ!ミッドシップのGTでラグジュアリーな旅を味わう

福岡からスタートし、別府温泉を目指す

数ある自動車メーカーでもマクラーレンほど硬派なブランドはない。ひと昔前であれば、けっして珍しくはなかったが、今や世界で唯一のスーパースポーツカー専門に高性能モデルをリリースし、しかも順調に販売台数を伸ばしているから、もはや驚異的とも言える。実際、いま多くの自動車メーカーの屋台骨を支えているのは、紛れもなくSUV。スポーツカーを造り続けるためにSUVをラインナップに加えているのがプレミアムブランドの常識となっている昨今において、マクラーレンはスポーツカー1本で勝負をかけている。

そんな姿勢は、やはりニューモデルのコンセプトにも色濃く出ている。中でも新作「マクラーレン GT」がデビューした際は、個人的に驚異を覚えた。何故ならミッドシップでGTを名乗る世界初のグランドツアラーだからである。無論、同時に疑問も生まれる。確かにこのGTがデビューする前に、アルティメット・シリーズの新作としてグランドツアラーというコンセプトをもってスピードテールを発表してはいたが、それはあくまでもスペシャルモデル。まさかレギュラーラインナップにまでGTを用意するとは思ってもみなかったというのが本音だ。

そんなマクラーレン GTに対する好奇心は、日々自分の中で大きくなり、興味を超えた感情を抱くようになったその矢先、ようやくそのステアリングを握る日に恵まれた。そして、試乗するならコンセプトに従ってグランドツーリングを実行すべき!と思い、正規ディーラーのマクラーレン福岡からスタートし、目的地を大分県別府に位置するANAインターコンチネンタルホテル別府リゾート&スパに設定。欧州のラグジュアリーホテルに引けを取らないほどの充実した設備と日本ならではの温泉が楽しめるということで、マクラーレン GTをつかったライフスタイルを具現化することに決めた。

途中、立ち寄った大分県日田市の街。マクラーレン GTは、こうしたシーンでも扱いやすく、スーパースポーツカーとは思えないほど微速でもスムーズな動きを見せる。

低速域でも扱いやすいスーパーGT

とはいえ、当日はあいにくの雨。しかもそれなりの雨量となって襲いかかった。今回が初乗りとなるマクラーレン GTを相手に、大雨とは何とも運がない。日頃の行いがわるいのか、同行していたカメラマンの運がないのか分からないが、逆手に取って前向きに考え直し、この雨だからこそGTの本質も分かるだろうと心を切り替え、スタートすることとなった。

相変わらずなのか、以前来たときにも増して福岡市内は雨の影響かペースがまだら。ゴー&ストップも多く、スタートしても思うように進まない。しかし、そんな中でもマクラーレン GTは、ミッドシップカーとは思えないほどマナーの良さを実感させる。ブレーキタッチの感触は他のマクラーレンとはやや異なり、乗員へ配慮するかのように優しさすら思わせるほど。スーパースポーツモデルであれば、ガツン!と効くことに期待するが、このマクラーレン GTの場合、カーボンセラミックではなく、意図的に鋳鉄製のディスクを採用することで、不快感のないフィールを実現しているから、むしろ有り難い。

マクラーレン GTのリヤラゲッジ。スキー板やゴルフバッグなど長尺物の搭載も可能。ミッドシップカーでこれだけの許容量をもつモデルは他にない。

しかも、低速域での扱いやすさも際立つ。ミッドに積まれるV型8気筒ツインターボエンジンは、スーパーシリーズの720S等と同様の4リッター仕様を搭載、パワー&トルクは抑えられるものの、それでも620ps&630Nmを発揮する。低慣性のターボチャージャーを使用することで柔軟性に富んだトルク重視型としているだけあり、フレキシブルさを持ち合わせ、わずかなアクセルにも心地よく反応し、微速でもスムーズに動く。

また、吸排気システムのいずれも新設計したうえ、サージタンクの高さを抑えることで、エンジン上部には420リットルものラゲッジスペースを確保しているのも特筆すべき点だ。これこそGTを名乗る条件のひとつと言えるが、その気になればゴルフバッグの搭載のほか、185cmのスキー板を2セット詰めるというから恐れ入る。ミッドシップなのに・・・という先入観だけで判断してはいけないが、これを実現したマクラーレンのデザイナーとエンジニアに敬意を評したいほど、このスペースは乗り手にとって嬉しい限り。ましてやフロントには150リットルのスペースも用意されているから、躊躇なく旅立てる。こうしてミッドシップカーで旅できることに、あらためて喜びを感じてしまった。

目的地の別府温泉まで向かう中、大雨に見舞われたものの、高速での安定性を確認。しかも快適性も高く、フレキシビリティに富む完成度を実感した。

カーボンモノコックとは思えない快適性

そして、高速道に乗ると今度はマクラーレンの真骨頂とも言えるカーボンモノコックと足まわりのセッティングに実にGTらしい真髄を確認することになった。軽量化が図られたアルミニウム製のダブルウイッシュボーンに油圧式ダンパーを組み合わせ、最適制御理論ソフトウェア=アルゴリズムにより、路面状況を先読みして、わずか2ミリ秒で対応するその乗り心地は、常に快適かつフラット。カーボンモノコックの振動をも抑え込むことに成功しているほどで、720Sよりもさらに快適性が高くなっていることに深い感銘を受けた。特にこの日の雨は目的地に近づけば近づくほど雨足が強くなり、路面のアンジュレーションや繋ぎ目など、特にヒヤッとすることがあるくらいだったが、そんな中でもGTの足まわりは、インフォメーション性に優れているうえで、的確な減衰を見せてくれた。

エンジンも、ふつうに流しているぶんには620psすら思わせないほど、ジェントルな仕立てで、たとえ晴れていたとしても、さほど飛ばしたくなるフィールではないのも見事。低中回転域におけるトルク特性は、いつでも加速体制に入れるほどのフレキシビリティをもつ一方で、けっしてドライバーを急き立てるようなこともしない、実に巧みな調教され具合も感心するところだ。

スポーツモードにしてワインディングを走行すれば、エモーショナルな一面を見せるとはいえ、ノーマルモードでは不思議と優雅なドライブを促すのが好印象。GTの名に相応しい完成度を思い知らされた。

優雅なドライブを促すフィーリング

こうして流していると、本当にミッドシップなのか?と疑いたくなるほど快適でマナーが良いから、時間の経過すら忘れてしまう。そう思いながら気づけば随分と距離を伸ばしていた。別府の温泉街を目指す前に、撮影ポイントとして由布岳とやまなみハイウェイを通ることにしていたが、残念なことにここに到着する頃には完全な豪雨に・・・。これほど酷い雨は久々と思えるほど強い降り方のため、撮影は断念せざるをえなかった(本当にくやしい!)。同時にあの絶景を見ることも出来ないから、悔しさだけが込み上げてくるばかり。せっかく、別府まで来たのに・・・と愚痴をこぼしながらワインディングを走っていると、GTを名乗るとはいえ、さすがにミッドシップの恩恵を感じることになった。

豪雨ということもあり、それほどアクセルは開けられなかったものの、この大雨のおかげで挙動やクセがわかりやすかったから、むしろ収穫だったのかもしれない。GTのコーナリングは、まさにミッドシップのそれだが、クイック過ぎない適量のハンドリングに設定しているのが特に印象的。ドライバーを軸にして回り込むような感覚も尖すぎず、なぜか不思議と落ち着いたドライビングに終始するため、ワインディングを優雅に流せる。こうしたところはマクラーレンならではだろう。まさにGTである。もちろん、スポーツモードに切り替えればその名に準ずるように、刺激的なフィールで楽しませてくれるが、それでも基本的には安定志向。さすがに豪雨の中ではトラックモードまで試せなかったものの、挙動も含めてその動きは、敢えて過激さを抑え込み、適度な刺激でドライバーと対話をするような仕上がりにしている。それが実に上手い! まさに丁度いい塩梅で、GTというコンセプトをマクラーレン流の解釈で造り上げている。

目的地のANAインターコンチネンタルホテル別府リゾート&スパに到着。ミッドシップらしからぬエレガントなデザインに感銘を受けた瞬間でもあった。

こうしてGTに魅了されながら、目的地のANAインターコンチネンタルホテル別府リゾート&スパに到着。美しく仕上げられたエントランスにマクラーレンGTをつけ、特別に許可を頂き撮影をはじめると、そのデザインの表現力にあらためて気付かされる。デザイン・ディレクターのロブ・メルヴィルに、実に良い仕事をしたと褒めてやりたいほどだ。スポーティというよりもエレガント、パワフルというよりも余裕、そしてラグジュアリーらしい優雅さをエクステリアで表現している。だからこうした場にも相応しい。そんなミッドシップカーが他にあるだろうか。少なくとも私は知らない。まさに唯一無二の存在だろう。イタリアの跳ね馬や猛牛が嫉妬するほどの出来栄えだ。アンダーステイトメント=控えめの美学を理解するイギリス人だから成せるセンスが活きていると思い知らされた次第である。

宿泊したのは、ANAインターコンチネンタルホテル別府リゾート&スパのクラブインターコンチネンタルルーム。日本の伝統工芸を活かした、スタイリッシュでモダンなつくりで実に落ち着いた贅沢なひと時を過ごした。テラスには別府湾を望める露天風呂もついている。もちろん、ホテル内のレストランの味も一流。まさにラグジュアリーを満喫した旅となった。

もはやクーペを選ぶ理由はない。マクラーレン 720Sスパイダーの試乗で至った境地 【Playback GENROQ2019】

究極の爽快感をもたらすスパイダー

カーボンコンポジットのボディと720ps/700Nmの類稀なるパフォーマンスを味わえるマクラーレンのスーパーシリーズ、720Sにスパイダーボディが加わった。速さと爽快さに加えて優れた実用性も併せ持つ、新たなフラッグシップの誕生である。

ラインナップのほぼすべてにスパイダーボディを用意する理由は「人気があるから。販売台数の半分はスパイダーだ」と、マクラーレンは簡潔に答える。

マクラーレンの販売台数の半分はスパイダー

マクラーレンのスポーツシリーズには540C、570S、570GT、600LTという4種類のラインナップがある。そのうち570Sと600LTにはスパイダーが用意されており、今回新たにスーパーシリーズの720Sにもスパイダーボディが加わった。派生モデルである570GTを除いたスポーツ&スーパーシリーズ基本4車種のうち、3車種にスパイダーが用意されることになる。これは相当なオープン率だといえるだろう。こうなると540Cにスパイダーがないのが不思議にさえ思えてくる。

思えば過去には12C、675LT、650Sにもスパイダーがあったのだから「ロードモデルにはスパイダーを用意する」というのはマクラーレンの社是のようだ。今回、アリゾナで行われた720Sスパイダーの試乗会での食事の際、隣に座ったプロダクト・マネージメント統括のイアン・ディグマン氏に「なぜそんなにたくさんスパイダーを造るのですか?」と聞いたら

「決まってるじゃないか。人気があるからだよ。マクラーレンの販売台数の半分はスパイダーなんだよ」という、明瞭な答えが返ってきた。

機能的なコクピットは、カーボンモノコックの形状のため足元がややタイト。メーターはすべてTFT液晶となるなど、新世代のスーパースポーツといった印象だ。

カーボンモノコックのボディ構造がマクラーレン・スパイダーの有利な点だ

ビジネス上のメリットを考えて商品を作るのは当然であろうし、マクラーレンは基本的に商品開発の段階からオープン化を考慮しているという。昨今、他ブランドもそういう例はあるだろうが、マクラーレンが有利なのは言うまでもなくカーボンモノコックを用いたボディ構造を採用している点だろう。この強固なボディのおかげで、屋根を切っても新たなボディ補強は行わなくても大丈夫、というのがマクラーレンのスパイダーたちの宣伝文句だ。

ただ720Sスパイダーが採用しているモノケージIIと呼ばれるカーボンコンポジットは、オープン化に伴っていくつかの変更を受けている。ルーフ部分をカットしてリヤまわりの形状を変更したことに加えて、Aピラーを強化して同時にフロントウインドウの上部を少し前進させている。またリヤデッキの高さを25mm下げて、後方視界を改善するという改良も行われた。しかし、いわゆるボディ剛性を上げるための補強はなされていないという。

ちなみに720Sをスパイダー化するにあたって施されたハード面の変更メニューは、そのモノケージIIのリファイン(呼び名はモノケージII-Sとなった)と、新デザインのドアとヒンジ、フロントとリヤフェンダーのデザイン変更、新デザインのホイール、とこれだけだ。重量は1468kgで、これはクーペよりもわずか49kgの増加にとどまる。そのためかサスペンションの設定などもクーペと同じだが、アクティブリヤスポイラーは、クローズド時とオープン時でその制御を変えるなどの変更が加えられている。

フライング・パットレスがガラス製となっているので、斜め後方視界は飛躍的に向上した。

スーパースポーツカーとしては異例に後方視界が良い

リヤまわりがトンネルバックとなったことで、どことなく570S風のルックスとなった感はあるが、独特の昆虫のような顔つきは健在。しかし外観上の最大の特徴であったルーフまで一体となって開くスタイルのディへドラルドアが、スポーツシリーズと同じような形状となったのはやや残念だ。リトラクタブルルーフは570Sスパイダーとは違ってワンピース構造なので、その動作はシンプルでスムーズ。オープンに要する時間はたったの11秒で、スイッチを押すと本当にあっという間にフルオープンとなる。おそらくこれは世界で最も早い動作の電動ルーフだろう。

またこのルーフは中央部がガラスとなっており、クローズドでも外の風景や陽射しを楽しむことが可能。しかもこれはエレクトロミック・ガラスと呼ばれる調光式で、ルーフにあるボタンを押すことで瞬時に濃いブルーに変えられるので、真夏でも大丈夫だ。遊び心溢れる装備だが、ガラスは重量的にはかなり不利なはずで、もしここをカーボンや樹脂製としていたら、重量はもっと軽くできたに違いない。

720Sスパイダーのもうひとつの大きな特徴は、ボディ後部に伸びるフライング・バットレスで、後方視界確保のためにここがスモークガラスとなっている。実際にシートに座って振り返ってみると、この手のスーパースポーツカーとしては異例に後方視界が良い。そもそもクーペの720Sがミッドシップスポーツとしては世界一と言えるほどの視界の良さを持っているが、スパイダーとなってもその美点は受け継がれている。そのガラス製フライング・バットレスもそうだが、リヤデッキの高さを25mm低くしているのも大きい。これにより、後方直後の死角は以前の650Sスパイダーと比べて7.5mも短くなっているという。

前後足まわりにダブルウイッシュボーンを採用したうえで、前後ダンパーを電子制御し協調するPCCII(プロアクティブシャシーコントロールII)を採用。優れたダイナミクス性能を披露する。

卓越したダイナミクス性能。スピードを上げても挙動は徹頭徹尾乱れない

センターコンソールのボタンを押してエンジンを始動し、まずはクローズド状態で走り出す。スピードを上げていってもルーフ周りから軋み音などは一切聞こえてこず、まるでクーペボディかのように室内は快適だ。ルーフのガラスを通してアリゾナの太陽がさんさんと室内に降り注ぐ。クーペの720Sもルーフをガラスにすることができるが、それよりも明らかに開放感は大きい。頭上にあるスイッチを押すとガラスは瞬時に着色されて陽射しと暑さがさっと遮られる。物理的なシェードがないと暑さは和らがないのでは、と危惧していたのだが、これなら日本の真夏でも快適に過ごせそうだ。

それにしても素晴らしいのは720Sスパイダーのダイナミクス性能だ。スピードを上げていってもその挙動は徹頭徹尾乱れず、多少の路面の荒れもダンパーが完璧に受け止めて、ボディはほぼフラットなままだ。すべてのダンパーを回路でつなぎ、油圧を電子制御するPCCIIは、例えばコーナリングの最中にステアリングを多少乱しても、不快な挙動変化をほとんど示さないという素晴らしさだ。しかも乗り心地が非常にしなやかなのも特筆すべき点。サーキットや峠を目を三角にして攻める、というのも楽しいが、街中や高速道路をゆったりと流す、という使い方も快適にこなせるのがクーペにも共通する720Sスパイダーの美点だろう。

「ボディ剛性や重量、シャシー性能といった基本的資質を高めることで得られるピュアな操縦性能の高さが魅力だが、スパイダーならそれをより一層色濃く感じられる」と、クーペはもはや不要であると筆者は断言する。

マクラーレンのピュアな操縦性能をスパイダーなら一層色濃く感じられる

ここでルーフをオープンにする。開放感は非常に高いが、サイドウインドウを上げていれば60km/hくらいまでは風の巻き込みもほとんど感じないほどだ。風と日光と背後のややくぐもったV8サウンドを感じながら走ってみると、そのフィールにクローズド状態、もっと言えばクーペに対するネガさえもまったくない。それどころか、ステアリング操作に対するクルマの挙動がほんのわずかだがシャープになっていることに気づく。

上屋のガラスがなくなり、重心が低くなったことの効果だろう。720Sに限らず、マクラーレンは最近主流の電子デバイスによる制御機能に頼らず、ボディ剛性や重量、シャシー性能といった基本的資質を高めることで得られるピュアな操縦性能の高さが魅力だが、スパイダーならそれをより一層色濃く感じられるというわけだ。

もはや、あえてクーペを選ぶ理由がない、とさえ言える。あなたが絶対に屋根を開けることはない、と言い切れるのなら話は別だが。

マクラーレン 720S テストドライブ in しまなみ海道

McLaren 720S Test Drive in Shimanami kaidou
マクラーレン 720S テストドライブ in しまなみ海道

晩夏のしまなみ海道を島下泰久がマクラーレンで味わう

マクラーレンの中核モデルを担う「スーパーシリーズ」に属する720S。マクラーレン車のアイデンティティであるディヘドラルドアを真上に開けた姿も美しい。

マクラーレン 720S&720Sスパイダーで、夏と秋の狭間のしまなみ海道を行く。そんな楽しそうなお誘いが来たら断る理由なんてない。とりわけ今年の前半はステイホームを強いられて、どこにも出掛けられないストレスが溜まっていたから、落ち着いたらどこか気持ちの良い所までリスク最小のドライブ旅行を・・・と考えていたのだ。まさにクルマも、舞台も完璧と言うほかない。

万全の準備をして久々の飛行機に乗り、愛媛県の松山空港へ。荷物をピックアップして空港の外に出ると、陽射しはまだまだ強く、西に来たなという思いを新たにする。そして駐車場へと歩くと、そこには720S、そして720Sスパイダーの2台が準備万端、待っていてくれた。

ホオジロザメをモチーフにした威圧的な姿とは反する快適な室内

4輪それぞれのダンパーの油圧を協調させて電子制御する「プロアクティブシャシーコントロールII」の恩恵もあり、荒れた路面でも確かなロードホールディングを実現する。

同行の渡辺敏史氏とあとで乗り換えようと約束して、まずは目の覚めるような美しい青、その名は“パリ ブルー”の720Sスパイダーのキーフォブを受け取る。荷物はフロントのラゲッジスペースへ。容量は150リットルあるから1泊の荷物には十分以上である。リヤウインドウの下にレザー製のストラップが見えるように、シートの背後にも荷物を置ける場所があるから、2人で2泊以上の旅になったとしても不足はなく、帰りにはしっかりお土産まで買って帰れるはずだ。

右側のディヘドラルドアを開けて室内へ足を踏み入れると、薄いブラウンのインテリアの美しさに、またまた溜息させられた。右ハンドルということで、モノケージIIに押されてペダルはやや左にオフセットされているが、2ペダルということもあり、ポジションは案外しっくり決まった。

見た目には、まあ物々しいクルマである。何しろホオジロザメをモチーフにしたというのだから威圧感は強い。それなのに実際に乗り込んでみると、スカットルが低く視界が開放的なのが効いていて、物怖じせずに動かすことができる。駐車場の料金を払う時なども、長く伸びたドアミラーのステーがガイドの役割を果たしてくれて、自信を持って寄せていけた。後方、そして斜め後方もこの手のクルマとしては望外に視界が開けている・・・というわけで走り出す前の緊張感はどこへやら、一般道へ合流する頃にはすっかりリラックスした気持ちになっていたのだった。

磨きをかけたプロアクティブ シャシーコントロールII

最高出力720ps/最大トルク770Nmを発生する4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンをミッドに搭載。最高速度341km/h、0-100km/h加速は2.9秒を計上する。そのポテンシャルは公道上ではとても測りきれるものではない。

空港を出てしばらくは一般道を行く。国道196号線に入ったらひたすら北上。道は途中、海沿いにも差し掛かり、そうすると広いフロントウインドウの向こうにキラキラ輝く水面が映ったりもして、つい気分が盛り上がる。

乗り心地も上々。ボディはいかにも軽やかなのに凄まじく強靭で、しかもサスペンションが決して長くはないだろうストロークの中で、実にしなやかに入力をいなしてくれるから、舗装の荒れたところでもまったく苦にならない。マクラーレン オートモーティヴの処女作、MP4-12Cの頃からの美点であるこの高い快適性、プロアクティブシャシーコントロールIIを採用した720Sでは、ますます磨きがかかったように思える。

路面とタイヤのコンタクトを極限まで維持しながら、路面の入力はできる限り排除し、いなす。足元ではドライバーが感じるよりも速く、高度なアルゴリズムによってサスペンションが制御され、このまさに相反することを両立しているのだ。

過給エンジンであることを忘れさせるリニアな4.0リッターV8

何よりも軽量性能にこだわるマクラーレンの文法に沿ってシャシーはカーボンモノコックを採用。筆者は卓越したシャシー性能のみならず、高度なエンジンの調律にも高評価を与える。

そんなわけで、まったく疲れも退屈もしないまま気づけば今治市へ。そして予讃線に沿うかたちで高縄半島に入っていき、今治北ICの料金所をくぐれば、しまなみ海道ドライブのスタートである。

料金所を過ぎ本線に合流したらアクセルオン。これまで回せていなかったエンジンを思い切り歌わせて・・・と言いたいが、このクルマで全開になどしたら一瞬で法定速度のはるか先にまで到達してしまう。目立つクルマでもある。あくまでジェントルに、流れに乗っていく。

ここまでの一般道でも感じていたが、キャビンの背後に積まれたV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンのドライバビリティは本当に素晴らしい。最高出力720psというハイチューンにも関わらず、低回転域でもむずがる様子を見せることなく淡々とクルージングをこなせるし、追い越しなどの際にには右足にほんのわずかに力を加えれば、まさに思った通りに速度が上乗せされる。反応が遅れたり、逆にいきなりパワーが立ち上がったりといったことがまったく無く、とにかくリニアで、その点では過給エンジンであることを忘れさせる。

もちろん、単に躾がいいだけではない。ちょうど良いよりわずかに多くアクセルを踏み込めば、鋭いピックアップでパワーが立ち上がり、まさに吸い込まれるかのような加速が始まる。この辺りは、まさに過給ユニットらしい刺激。乗り手次第でジキルにもハイドにもなる。

秘めたパワーを開放せずとも無類の一体感でGT性能は高い

これまで私は色々なところで「マクラーレンはF1を見てもわかる通りシャシー屋で・・・」 と書いてきた気がするが、そろそろこのフレーズは封印するべきなのかもしれない。シャシーも相変わらず素晴らしいが、彼らはスポーツエンジンの調律においても目覚ましいものを見せてくれているのだから。

こんなエンジンなので、やはり思い切り踏みたい気持ちに抗うのは難しい・・・という常套句でもそろそろ使うべきかもしれないが、この720S、法定速度で流れに乗って走っているだけでも望外の気持ちよさで、速度を上げたいという気持ちになど、まったくなっていなかった。速く走ろうと思えば、いつでもいけるという気持ちの余裕もあるが、やはりその優れたドライバビリティがもたらすクルマとの無類の一体感が、そう思わせるのだろう。

途中、工事渋滞にまで遭遇してしまったが、それすらまったく苦にならず、待ち合わせの生口島南ICまでのドライブは、思いのほか充実したものになった。気づけば、一度もアクセルを全開にすることなく・・・。クルマとの対話があまりに楽しくて、試すつもりだったBowers and Wilkinsのオーディオ、聴きそびれてしまったのだけが、唯一の心残りである。

待望だった720S スパイダーの感触

720Sのクーペモデルに続いてスパイダー(写真左)を試乗。スパイダーは左ハンドル仕様であり、ペダル配置にも違和感を感じなかった。

マクラーレン720S&720Sスパイダーで、しまなみ海道を行くドライブ。松山空港から生口島までの往路をマクラーレン720Sで走り、いよいよ帰路はマクラーレン720Sスパイダーへと乗り換える。クーペはこれまでもサーキットを含めて何度かステアリングを握っていたがスパイダーは今回が初めてで、密かに楽しみをあとに取ってあったのだ。

こちらのボディカラーは“スーパーノヴァ シルバー”。一見、単純な銀かと思いきや実車はとても深みがあり、また美しく輝く色で、この地味派手な感じも気に入ってしまった。

前方視界はパノラマ級に広いスパイダー

基本的なスペックはクーペに準じる720Sスパイダー。最大の違いであるオープントップでのドライブは、パノラマ級の前方視界と管楽器のように響き渡るエキゾーストノートという、感性に訴えかけてくるもの。

左ハンドルということで、さっきまでとは反対側のディヘドラルドアを開ける。クーペとは違ってルーフ側には支点がないので、ドアの開き方は微妙に異なる。マニアだけが知るポイントである。室内へと乗り込むと、さすがにペダル類のオフセットも無く、ドライビングポジションはぴたりと決まる。ミラーの位置などを調整したら、居ても立っても居られずすぐさま走り出した。

せっかくのスパイダーなのにルーフは開けないのかって? いやいや実は720Sスパイダー、リトラクタブルハードトップでありながら走行中でもルーフはスイッチひとつで開閉可能。だから走り出してからオープンにすればいいという算段である。

開閉所要時間はわずか11秒。室内に海の匂いのする風が心地よく入り込んできた。風の巻き込みはよくコントロールされているが、室内は完全に無風になるわけではなく、適度に髪を撫ぜる感覚である。オープンらしさを、ストレス無く堪能できる。

クーペと同じくシートポジションは地面に座っているんじゃないかというぐらい低く、それなりにスカットルも思い切り低くされているから前方視界はパノラマ級に広い。しかも見上げれば青い空である。気持ち良くないはずがない!

ちなみに試乗車はオプションのエレクトロ・クロミックガラスルーフを装着していたから、クローズ状態でもスイッチひとつで室内に明るい陽光を採り入れることができた。天気や気温で、楽しみ方は自由自在だ。

管楽器から奏でられているようなエキゾーストノートに昂る

今回のロードトリップでは本国のプロダクトマネージャーにオンラインでインタビューを行うことができた。マクラーレンがステアリングフィールを最重要視していることを訊き、筆者も同意見であると膝をうった。

この辺りには短いながらもワインディングロードがあったので、軽くコーナリングも楽しんだ。小径のステアリングを切り込んでいくと、クルマは余計なロールなどを感じさせることなく、まさに“スーッ”という音を立てるがごとくスムーズにノーズをイン側へと向けていく。これまた気持ち良い!!

クルマが想像以上の鋭さで勝手に曲がっていくわけではなく、思った通りのラインを忠実にトレースしていく。まさに意のままになる感覚は、別に飛ばさなくたって、ゆっくり走っていても味わえる。このコーナリング感覚が720Sとまったく変わらないのは、CFRP製のバスタブであるモノケージII-Sを採用したボディの強靭さの賜物だろう。

実際には4輪のダンパーを連関させたプロアクティブシャシーコントロールIIや、アクティブ・ウイングなど満載された最先端のテクノロジーによって統合制御されたシャシーなのだが、そのふるまいはあくまでナチュラル。人の感覚に寄り添い、まさに人馬一体という言葉を使いたくなるような走りを堪能できる。

そうした印象には絶品のステアリングフィールも大いに貢献している。タイヤに、地面に、直接触れているかのようにダイレクトで、それでいて雑味なく非常にクリアな操舵感は、クルマとのコネクト感をこの上ないレベルにまで高めているのだ。

エンジンの印象もクーペで感じたのと同様で、やはりアクセル操作に対するリニアリティが素晴らしい。しかもオープンボディということで、音の魅力が倍増しているのがこのスパイダーなのだが、その音にしても演出めいたブーミーな低音ではなく、まさしく完全燃焼した排ガスがきれいに抜けていく音という感じで、少々誇張気味に言えば管楽器から奏でられているかのよう。踏み方、走らせ方に応じて音色が変化するのが小気味よく、押し付けがましい音じゃないから聞いていて飽きない。こちらもまた回しても、回さなくても、とても耳ざわりが良いのである。

本国のマネージャーにオンラインインタビュー

最高出力720psというハイパフォーマンスを公道で発揮することは難しい。しかし720Sのロードトリップを通じて、余裕のある高性能がストリートでも有効であることを再確認することができた。

そんな具合で720Sスパイダーでの心地よいドライブに大満足してこの日の宿に入ると、イギリスはウォーキングとネットが繋がっていて、オンラインでインタビューすることができた。お相手はグローバルプロダクトマネージャーのMr.Ian Howshallだ。

話はちょうど発表されたばかりの、将来の電動化に向けた新しい軽量アーキテクチャーについて、あるいは昨今の市況についてなど多岐に渡った。その中で私が訊いたのはマクラーレンの考える“スポーツカーが持つべき走りの質、テイスト”とはどんなものか」ということ。果たしてその答えは、まさに我が意を得たりというものだった。

「私達はドライバーがどんな体験を得られるのか、そしてその質を重視しています。その大切なキーのひとつがステアリングフィールです。マクラーレンは敢えて電動油圧式のパワーステアリングを使い続けています。これには理由があって、私達としてはクルマと人、ドライバーと路面がしっかりコミュニケーションしてほしい。その一助となるべきものがステアリングシステムで、電動油圧式では、路面のミクロレベルのバイブレーションまで敏感なドライバーの指先に伝えてくれるので、まるで路面とつながっているかのような感触が得られるのです」

闇雲に飛ばさないからこそ神髄に触れることができた

マクラーレンというブランドには、モータースポーツからのフィードバック、最先端のテクノロジーというイメージがどうしても強くなる。実際、それは事実なのだが、ロードカーづくりの根底にあるのは、あくまで人間の感覚を大事にするという哲学だったというのは、なかなか興味深い話ではないだろうか?

行程すべてが一般道ということで、思い切り飛ばせるわけではないはず。さて、一体どういった印象を得ることができるのかと、実は事前には不安もないではなかった今回の試乗。終わってみれば、まさに闇雲に飛ばすのではないからこそ、マクラーレンの真髄に触れることのできる機会となった。

高速道路でも基本的には100km/hまでの日本でスーパースポーツに乗る意味。少なくともマクラーレン 720S&720Sスパイダーには、十二分にある。この旅を経て、私はそう断言したい。